女子高生にしては長い様な、でも茂庭さんの印象にしては何だか少し短い様な。膝から少し上のスカートが視界で揺れている。ハーフアップはきっちりと纏められて遊びはない。真面目さが滲み出る後ろ姿を静かに、ゆったりと堪能して、それから俺は声を掛けるために駆け足になる。
「もーにわさん!」
「お、二口じゃん」
「折角会ったんですから、かわいー俺に何か奢ってくーださい!」
「うわ、さいあく」
茂庭さんはじっとりと目を細めて。『たかりに来たのかよ』と一言。ただ声を掛けたくて思い付いた言葉だったのと、ワンチャンマジで奢ってくれないかななんて期待と。両方の思いで彼女の明るい返事を煽れば、茂庭さんは仕方無さそうに苦笑いを浮かべる。
「…ったく、しょうがないなぁ。ほら、じゃあ自販機行くよ」
「やったー!あざす!」
望んでいた言葉が簡単に返ってきて、少しちょろいなとも思いつつ。茂庭さんといる時間がほんの少し増えた事が嬉しくて。少し前を歩く彼女の隣に並ぶために、歩幅を大きくした。
「もー、調子良いんだから」
「えー、茂庭さんだって奢りたいでしょ?こんな可愛い後輩」
「調子乗んなって」
茂庭さんとの軽快なやりとりは楽しくて。調子乗んなと言いつつも、楽しそうにくすくす笑う彼女を斜め上から眺めるのは嬉しくて。この距離感でいられるのは直属の後輩だからこその特権だなとは思うけど。まあ、ただの後輩というだけで終わる予定は一切ない。
「二口、青根たちには黙っときなさいよ」
「えー?なんでですか」
「二口だけずるいってなっちゃうから、他の子には内緒」
ずるいってなっちゃうとか、言い方が可愛くて。胸をキュンキュンさせながら、『はぁい』とお返事。まあ、そんな注意なんて聞かずに全然自慢する気満々だが。好きな先輩から貰った飲み物なんて、言いふらして自慢しないで何になるのか。
「どうせ言っても言いふらすんだろうけど」
とは言え茂庭さんは何でも分かっていて。俺の事はもうお見通しだった。分かってくれてるんだとか、単純だから嬉しくなって。ニヤニヤと口角が上がるのを必死に隠した。
「今日奢ってくれるんで、俺も茂庭さんに奢ったりしようかな」
「え、そんな事すんの、おまえ」
「しますよぉ。今度一緒にスタバ行ってください」
「え、ええ!?今日の飲み物絶対二百円もしないのに!?」
茂庭さんは目を丸くして驚いた声を上げる。金額なんて正直どうでもよくて、本当は二人でいる口実を作りたかっただけ。そんな事を茂庭さんが察してくれるはずもなく、『いやいや』と首を横に振った。
「いい!いいわ!大丈夫!今日の飲み物気にしないで!そんな、ドリップでも四百円すんのに」
「いーから、しのごの言わない!」
「いやいや、後輩に奢らせる訳には」
「…もー、茂庭さんのおばか!察しろ!」
「は!?おま、せ、先輩にバカって…!」
「鈍ちんな茂庭さんは意地でもスタバ連れて行きますからね!」
そう言って二口はべぇと舌を出す。後輩にバカ呼ばわりされた衝撃で、驚きを隠せず、ぷりぷりと怒る彼女の手を二口は遠慮なく引っ張って。自販機まで連行した。
「こら、二口!もう、先輩にバカはダメでしょ!」
「すみません!でも茂庭さんが気付いてくれないから」
「な、なにが!?」
「そういうとこです!」
気付いて欲しくて、でも恥ずかしい。二口の中にもそんな感情があるから。髪の隙間から覗く彼の耳は真っ赤になっていた。