異次元がダークライが作り出してしまった空間なのだとしたら、それは人々の潜在意識や記憶や思念以前に、悪夢の具現化なのかもしれない。ミアレを飲み込んでしまう以前にあの場に長時間居座ると何か想像を絶する程の最悪な事が起こる様な気がする。
というのはダークライを捕獲した後、セイカなりに彼を調べた結果の結論であって。異次元騒動については既に収束しており、あとは異次元が完全に消滅するのを待つのみなので。もうそんな心配はしなくても良いのだけれど。
「私達の思いとか、想像とかが具現化される空間なら、あの時アンジュの暴走を止められなかったミアレシティとか現れてた可能性もあるのかもね」
そう言えばガイは黙り込んでしまって。困った様な怒った様な悲しい様な、何にせよ暗い表情をしていて、悪い事を言ってしまったかなと後悔する。
「…だとしても、俺達がこの街を救った事実は何も変わらないぜ。悪いもしもの話をしたって、現実では助かったんだからそれで良いだろ」
「そうだね。そんな話は不毛だった」
意味の無い仮定の話をしてしまった。物事を悪い方向へ考えてしまうのは、誰しもがしてしまう一般的な事で。別に責められる事では全く無いけれど、自分はガイの様に真っ直ぐと事実を信じて素直に未来を向く事なんて出来ない事をまざまざと突き付けられて。彼の輝きの下で勝手に惨めになっている。
「ただ、異次元に俺達の世界が飲み込まれたら、俺達は一生を悪夢の中で過ごす事になるのか」
「ちょっとやだね」
「ちょっとじゃなくてめっちゃ嫌だろ」
異次元の発生も悪夢も、全く本意では無いダークライには申し訳ないが。可哀想なのとは別に、それはそれで嫌なので。想像して顔を顰めるガイにセイカはくすくすと笑った。
「でもなんか、ガイがいるなら大丈夫な気がする」
「なんでだよ」
「ガイなら悪夢を吹き飛ばしてくれそう」
「無理だって。俺クレセリアじゃないし」
「えー、でもそれが出来なくてもさぁ、大丈夫だと思うんだ」
セイカの視線は優しく、とても真っ直ぐで。ガイに対する純粋な信頼や希望が感じられて。彼は少し照れ臭く思う。純粋に慕ってくれるのは嬉しいけれど、期待はそれなりに恥ずかしい。
「ガイならきっと悪夢を見たって助けてくれるだろうし」
「まあ、助けられるものなら助けようと思うぞ」
「うん、ふふ。だからもしそういう事が起きたら約束してね」
「約束?」
「もしも私が悪夢に囚われた時は、あなたが私の手を引いて助け出してね」
ガイの手を両手で包んで握った彼女は彼を見つめて、キュッと目を細める。そんなセイカを見ていると、その期待には必ず答えないといけない様な、そんな気がして。彼女の手をぎゅっと握り返すのが、彼なりの返答だった。
「…でも、異次元に取り込まれた状態でそんな事が起こったら、俺も悪夢に魘されてるだろうし、結局どうする事も出来なくないか?」
「ガイならどうにかするでしょ」
「なわけ」
「仮にそうだとしても、絶対だよ。絶対に助けに来てね」
出来るかどうかはまた別として。絶対と言われて自分を求める彼女をすぐに裏切る事は、ガイには出来なかったから。『善処する』なんて言葉で保険をかけると。セイカは楽しそうに笑い声を上げた。