十分に身体に空気を入れたくて少し口を開けば。すかさずそのスペースに舌を捩じ込んでは好き勝手するものだから。キスの最中に一息吐く事も出来ずに、極力息を止めている。まるで水中に潜っている様に思えて、なんだか不思議な気分だった。
雪宮が離れると潔は大きく深呼吸をする。ぽやぽやと上手く回らない頭と、身体が痒みを帯びている様な感覚とで。謎の倦怠感に苛まれて眠たげに目を細める潔はなんとなしに呟く。
「…雪宮は十八歳で、俺は十七歳だから」
「うん?」
「未成年淫行罪じゃん」
あまりに唐突な言葉に雪宮は再度大きな声で『え?』と聞き返した。確かに俺は十八で法律的には大人で、目の前の後輩はまだ未成年の区分だけれども。成人の年齢であればやっぱり例外なく適用されてしまうのかとか。雪宮は色々考えて、目を回して。一歳でも年の差があるというのはこんなにも大きな違いだったのかと動揺する雪宮に、潔は笑った。
「何で距離取んだよ」
「…いや、まあ」
「もう遅いだろ、こちとら色々やってんのに」
その色々とはまさしく色めいたあれやこれである。とてもではないが言葉で素直に言い表すには日本という国も、日本人という人種も適していない。奥ゆかしさや侘び寂びとは対極にある様な、人前では恥ずかしく堂々と言えないそれらを、二人は既に経験しており。それを考えればそんな指摘など今更だし、罪に問われるのであれば雪宮の罪状は日々嵩む一方である。
「やーい犯罪者〜」
「最っ悪」
子供みたいに声を上げ、面白そうに揶揄う潔に雪宮は眉を顰めた。もうそう言う気分も一瞬で萎えて、ソファーの背凭れにぐったりと体を預ける。すると潔はそんな男の肩に手を伸ばし、指を添わせた。
「どんな事してでも俺を手に入れようとしてよ」
「えー」
「ドロ舟」
「俺をドロ舟にしたのはお前だろうが」
とは言え、それくらいの覚悟がなければ潔を繋ぎ止めておけないというのは、そうだなと思う面もある。やはり彼は人気者なのだ。ブルーロックの同郷からも、世界中の戦士達からも、何億ものオーディエンスからも。
「お前の全部捨てないと、俺を手に入れる事は出来ねーかも」
「めんどくさ」
「でもお前そう言うの得意だろ」
何かを全部捨てた覚えなど一切ないし。もしサッカーの事を言っているのであれば、全く以って何も捨てていないし。あの時は生まれ変わっただけで理想も夢も、矜持だって変わっていない。ていうかそうさせたのはお前のせいだって、どの口が言うんだとか。
軽くイラッと来て肩に頬を乗せて上目遣いで覗き込む潔の背中に、ソファーの後ろに回していた手を伸ばし。そのまま肩を掴んで抱き込んでやれば。にんまりと潔は歯を見せた。
「そう言う顔するお前が悪いよ」
「わ、痴漢する人の理論」
「全部お前が悪い」
「流石九州出身〜横暴さが板に付いてる〜」
九州男児を全員敵に回したところで。とはいえ、思い当たる九州男児は割と揃いも揃って横暴極まりないので、正直否定は出来ない。ただこうなっている事も、雪宮が今に至るまでも、その過程にある全てが彼によって壊され、再構成する羽目になった事は自覚してほしいとも思う。雪宮が罪人であるなら、潔もまた罪人なのだと、分かってほしい。
「お前も俺も悪くて、でも全部お前のせいって事だけはちゃんと自覚しとけよクソガキ」
「でもお前は具体的に未成年淫行じゃん」
「それやめろ」
「雪宮が法に裁かれない内に俺も大人にならないとな」
そんな事が到底無理なのは、勿論お互いに承知で。裁かれねぇよと睨んだ雪宮は軽く潔の頬に噛みついてやるのだった。