マイガール・コレクション

カウンターの後ろに立ち並ぶ、カラフルな瓶が可愛らしくてセイカは思わず店の中をまじまじと見てしまった。それはアロマオイルのお店らしい。自分の部屋に置いてあるアロマディフューザーを思い浮かべながら、良いなぁと羨む。
(うーん、でも私つい先週新しくアロマ買っちゃったんだよなぁ、香りが好みのやつ見つけて思わず…)
それもアロマにしてはそこそこの値段がしたもので。仕事と、時折するバトルとで金回りに不自由はないけれど、残高を気にせず使えるほどはないし。無駄遣いだって良くないよねなんて、染み付いた庶民の感覚で店に立ち寄る事を諦めようとしたのだが。
「アロマ欲しいのか?」
「え?あ、ううん、いいよ」
「遠慮しなくて良いぜ。欲しいなら買ってあげるから」
「いや、この前新しいの買ってまだ開けてすらないから…次はそれ使い切ってからかな…」
「そうか」
どこか残念そうにガイは目を伏せて。それから気を取り直し、セイカはどんな香りが好きなのかと話題を振る。普段使っている香りや、最近のブームを話せば、ガイは楽しそうに聞いてくれた。うちに来た時はそれを炊いておこうかと言えば、セイカはガイの腕をギュッとホールドして、肩に頬を寄せた。
嬉しそうにふくふくと笑う彼女は、ふとブティックのショーウィンドウの前を通る。アクリルガラスの中、マネキンが着ている可愛らしいワンピースを目にして、思わず声を上げた。
「あ、かわい」
すぐそばで聞こえた小さな声に、ガイはしっかりと気付いて。彼女の視線を辿って、ふーんと声を上げる。
「大人っぽくて良いな」
「うん、かわいいよね。私もそろそろ新しい服増やそうかなぁ…ワンピースとか欲しくなってきちゃった」
「あれ欲しいのか?買おうか」
「……いや、もっと色々見て考えたいから今日は大丈夫」
「そうか?この前は誰かに取られるかもって言って衝動的にニット買ってただろ」
「…買ってた、けど!これはまだ大丈夫!」
「へー、そうか。まあ、セイカはどんな服でも似合うぜ。この世の服はセイカが身に着けるために生まれてきたと言っても過言ではないだろ」
「あは〜過言だよ〜」
適当に大言壮語な事を言うガイを引っ張ってその場から引き剥がす。彼は特に抵抗するでもなく、引かれるがまま彼女の隣を歩いた。
「わ、クリスマス!えー、箱可愛い。チョコレートのお店?」
そこには可愛らしいクリスマス仕様の箱が陳列されているチョコレートのお店があった。ガラスの箱に入った可愛らしい包装に包まれたチョコレート達がお店の壁に立ち並ぶ。店内にはクリスマスツリーが飾られており、来たるクリスマスを迎える準備は万端である。
可愛らしい店内と、魅力的なチョコレートにセイカが思わず目をキラキラさせていると。ガイはセイカの前髪を耳に掛け、ニッと笑った。
「かわいい顔してる、へへ」
「もーなに?」
「可愛い顔してたからちゃんと見たくて。やっぱ想像通り可愛い」
「もう、良いからそう言うの」
ヘラヘラとガイは締まりのない顔で笑う。頬をぽっと赤らめて照れ臭そうな彼女ににへらと口角を上げながら、ガイは優しく問い掛ける。
「入る?欲しかったら買うぜ」
「……ちょっと待ってね、ガイ。あのね、私が良いなって見たもの何でも買おうとするのやめよ」
セイカはガイの腕を引き、そう言う。先程の照れ臭そうな顔から一転、少し不機嫌そうに口を尖らせる彼女にガイは首を傾げた。
「なんで?買うのは俺だぞ?セイカなら俺の金は好きに使って良いぜ。別に勝手に財布から抜き取ってっても良いし」
「いや、ダメだよ。無駄遣いはダメ。いつかお金に困っちゃうかもだよ、ちゃんと貯金したりしないと」
「またすぐ稼げるけど」
「それはガイ社長だから…でも、ダメ!あんま軽率にお金使おうとしないで!過度な浪費は良くない!欲しいものが簡単に手に入っちゃう状況なもダメ!行き過ぎた欲はいずれ身を滅ぼすんだよ!」
首を振る彼女にガイは首を捻った。欲しいなら買えば良いのにと言いたげな男の腕をセイカは強くホールドする。
「俺は別に無駄?に金使ってるわけないけど。セイカが可愛いから課金してるだけで」
「そう言う気持ちはガイの言動でもう十分伝わってます!」
借金をした過去があるにしても、それはサビ組によって唆され、半ば押し切られる形で押し付けられたものだし、彼が進んで貰ったものではないから。ガイは金にそこまでの拘りは無かったし、特段執着しているわけでも無かった。だからこうして大切に取っておこうだとかそう言う気持ちもあまりないのである。
経済を回すためには消費が最も推奨されているし、取っておくばかりではなくて使う事も大切なのはセイカも理解出来るのだが、いかんせん、ガイの中における金銭の価値が値段よりも格段に軽い事が問題なのだ。
「金なんて使わないと意味無いだろ?」
「使わないと意味無いけど!将来的な事考えて貯めておくべきでしょ」
「将来的な事といえば?」
「何でわざわざ言わせんの」
嬉しそうに破顔してこちらを見るガイは、その将来の事なんて既に想像が付いていて。こちらに言わせる必要なんてないのに、わざわざ言わせようとしてくるところが、セイカは少し鬱陶しく思えた。
「じゃあ将来的にはセイカに俺の金全部任せるよ、俺じゃ使うし」
「もうそうやってまた人に面倒ごとを」
「じゃあ使うぞ?セイカに湯水の様に金を」
「分かった分かった!私がお金管理してあげるから!」
最近では比較的落ち着いたとはいえ、まだ何をしてかすか分からないこの男に、そう言ったものの管理権を手渡すのは何だか怖いのは変わらなくて。その方が安心だし良いかぁなんて半ば諦めの気持ちで頷いた。
「それで?」
「ん?」
「店入るんだろ?」
そう言って目を細め、首を傾げれば。セイカはムムッと眉間に皺を寄せて、ガイを睨む。
「…入るけど」
「入りたそうにしてたもんな〜。何食べたいんだ?」
「見てみないと分かんないもん!」
思っていた事が完全に読まれていたのが恥ずかしくて。腕に頭をぐりぐりと押し付けて痛め付けてやるけれど。ガイは擽ったそうに笑って、彼女の頬を撫でるから。なんか全然敵わないんだけどなんて言って悔しがるのだった。

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