意外

「おまえがそんなことを考えてるとは思わなかった」
そう呟いた彼女に反応して、蜂楽は顔を上げる。どう言う意図なのか測り切れず、言葉を探して眉を下げていたら。潔はハッとした顔をして、手を振った。
「あっ、そんな嫌な意味じゃなくて」
「え、その入りで嫌な意味以外なくない?」
「いや、ひ孫とかそう言うこと、考えるんだと思って」
「…インタビュー?」
「うん」
有名な大手のスポーツ誌に、注目のサッカー選手にインタビューというコーナーがあり、ブルーロック特集などと名打って数名の監獄生達に取材がなされた。蜂楽も抜擢され、色々な事を簡単に聞かれていた。おそらく、選出理由としては、まともに無難な事を愛想よく受け答えしてくれるだろうという絵心か、それよりも上の人間か、彼らの目論みだろう。蜂楽は突飛だが、空気は読めるし察する事の出来る人だった。
質問内容はサッカーの事というか、一昔前のプロフィール帳の様な、漫画のキャラクター紹介の様な、到底サッカーには関係のない事まで、薄らと書かれていて。サッカー好き相手というより、ブルーロックの多彩なファン層を取り込んで読者層を増やしたいという大人の思惑が透けて見えた。
そこで蜂楽が答えた質問に、その子孫の話があったのだった。それが潔にとっては意外だったのである。
「潔は俺をなんだと思ってんの〜?俺高校生なんだけど〜。あと一年で結婚も出来るし」
「い、いや、それは分かってるんだけど…なんか、蜂楽ってそういうのとは無縁だと思ってたから…」
「なに?そう言うのって。結婚?セックス?」
「っ!お前っ、そんな人前でっ、慎めよ言葉を!あほ!…だから、あんまそういう欲とかないと思ってた、から」
彼女の言葉に蜂楽はため息を吐き。呆れた様な顔で潔を覗き込んだ。
「いやいや、潔、俺の事子供だと思ってんの?」
「そ、そうじゃないけど…」
「ぜってーそうだ!俺だって普通に興奮するよ。好きなAV女優だっているし」
「あー!いい!そんな話しなくて!男友達にして!私にしないで!」
「潔が言ったんじゃん」
違う性別の相手にする話では全くないし。カップルでもするか分からない会話を、ただの友達関係の異性にするのはどう考えてもおかしい。恥ずかしい様な、居心地が悪い様な、はたまた困った様な顔をして潔は眉を下げた。
「…蜂楽子育てなんかまともに出来るイメージない」
「えー、俺結構子供あやすの得意なんだけど」
「あやされてるんじゃないの?」
「だからそんな子供じゃないって俺。まだ高校生だけど。それ言ったら潔も同じだし!」
「ていうか子育てどころか、それ以前に恋愛してるイメージ湧かない。…蜂楽みたいなタイプ、恋リアとかにもいないでしょ、見た事ないから分かんないけど」
「じゃあ例えに出しちゃダメでしょ」
イメージとはいえ、酷い言いようである。感性豊かで、変わり者の蜂楽だって人並みの感覚や考えを持ち合わせている。潔の言葉にそんなわけないと首を振って否定をした。
「俺は人並みに恋愛して結婚したいって思うし。別に結婚しなくても生きていける世の中でも、憧れというか、良いなって思うところはあるよ」
「ふーん。…なんか、リアル感出してくるね」
「何その言い方」
「いや、なんか蜂楽にはお人形さん的可愛さを求めてたんだなって知ったというか」
「…やっぱ俺の事、無欲な可愛いものと思って見てたな」
「だって可愛い顔してるから」
「俺の身体バキバキでしょーが」
蜂楽の裸など何度か見た事のある潔だが(特に蜂楽は脱ぎ癖があり、すぐ全裸になっている)、別にそれを見たところで蜂楽への幻想など変わらないし。それを経ても尚、潔は彼の事を純粋なものだと思っている。元気でやんちゃで、性欲とは程遠いサッカー小僧だと認識していた。
「俺の顔が割と可愛めなのは認めるとしても、俺そんな妖精とかみたいな感じじゃないし。普通に普通の男だから。好きな子と結婚したいし、恋もするよ」
「人並みなんだねー、蜂楽も」
「ちょっと残念そうにすんな。潔は?結婚したいって思う?彼氏は?ほしい?」
「……あのさぁ、それ絶対女友達に振る話じゃないって。好きな子から情報引き出そうとする時のやりとりじゃん」
「そうだよ、好きだし」
「ったく、適当なんだよなー、ほんと」
そう言って首を横に振ったが。途中で自分が思っていた回答と、実際に答えたものが違う事に気づき、『え?』と大きく声を上げた。
「どした?」
「今なんて言った蜂楽」
ハッとして蜂楽を見ると、彼は飄々と変わらない表情で。全てを見透かしてきそうなまんまるの目で、潔を見つめていた。その視線に圧倒され、潔は目を泳がせる。
「………タチの悪い冗談はやめなよ〜」
「冗談じゃないよ」
強く言い切る彼に、潔は言葉に困り、黙ってしまう。大きな困惑と、激しい心音と、渇いてカラカラの喉がきゅうと鳴った。
「俺はちゃんと本気だけど」
思った以上に低くて、真面目な声をして。蜂楽はどうして良いか分からずに俯く潔の顔を見る。
「結婚出来たら凄く幸せなんだろうなくらいはまあまあ思うし、マジで潔が思ってる以上に俺は潔の事ずっと見てるし、ずっと可愛いって思ってるし、色っぽいなとも思うし、俺は潔を全部見た上でね〜」
こんなの蜂楽じゃないという気持ちと、それくらいするよなぁなんて思いがぐちゃぐちゃになって。真っ白なまま混乱する彼女に、容赦なく言葉を続けた。
「大切にしたいって思ってるけど、どうかな?」
くらくらと揺れる頭。全身の体温が上がる心地がする。視界がゆらりと揺れて、潔は俯いた。あまりにも真っ赤な顔を抑えるために、両手で頬を隠しながら、深呼吸をした。

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