いいよ

「課題のための服を作るとかでさ、もう何日も寝てないって。ルナに言われたんだよ。流石に心配だろ〜?だからさ、タケミっちから寝るように言ってくんねーかな?ね、ほら、頼むよ!」
仲の良い友人にそう言われ、武道は断れるはずもなかった。『頼むよ』とまで言われて『いや、ちょっと』などと返せるはずがない。『うん』と声に気の進まなさが滲み出ていて、八戒に軽く笑われてしまった。
そのまま武道は八戒に連れられ、隆の家に来た。隆は母親と妹二人の四人家族だと聞いていたが、このアパートは四人で暮らすには少々狭い様な気がする。大変なんだなぁと他人事の様に思って息を吐いた。
キンコンとインターホンを鳴らせば、すぐにドアが開く。ガチャリと音を立ててドアの隙間から顔を見せたのは隆の妹であるルナだった。
「あ、武道さん来てくれたんだ」
「おー。呼んだよ」
「良かったこれでお兄ちゃん、やっと寝てくれるかもしれない」
ルナの安堵の声に武道は首を傾げる。妹が心配するほど彼は眠っていないのか。どれくらい起きているのかとルナに問い掛ければ、彼女は『もう五日だ』と答えた。
「提出日が来週の月曜でね、結構ギリギリになってデザイン大幅変更したから詰め詰めで作り直してんの」
「来週の月曜
「お兄ちゃんて結構慎重派で、絶対にチェックのために提出三日前くらいには完成させておきたいって人だから、もう連日徹夜で作業してるの。流石に体が心配だから良い加減寝て欲しいんだけど、私たちが何言っても聞かなくて」
「俺らでも無理。ドラケンくんに言っても無理だったもん。じゃあもうタケミっち以外で他にいないよねって話じゃん?」
今まで何人もの人がここへ来て隆に追い返されたのだろう。沢山の仲間達が隆に惨敗している中で、満を持してどうして自分を呼んだのか、武道には分からなかった。何を以て自分以外いないのだろうか。
「何で私なの?ドラケンくん達が何言っても無理なら無理じゃない?」
「いや、武道さんならいける」
「タケミっちならワンチャンあるって!」
八戒とルナに口を揃えてこう言われてしまった。どこからその自信が来るのだろうか。はっきりと言い切る二人に困惑して目を泳がせていると、ルナが武道の手を引いた。『入って』と中へ誘う彼女に眉を下げた。
「お兄ちゃん、武道さん」
部屋の中へずんずんと入って隆のいる場所へ案内する。小さな部屋中に色々な生地や素材を広げ、淡々と作業する隆はその声に反応して振り返った。目元の隈と、顎に生えた短い髭が目に留まる。酷く疲れ切った男の顔を見て、武道は目を丸くしてしまった。
「タケミっち
武道さん後よろしく」
「よ、よろしく!?え、丸投げなのっ?」
ルナはその場にいる事もなく去ってしまう。武道を連れて来た八戒はどこかで待っているのだろう。ここから姿は見えない。隆の事を丸投げされて思わず溜息を吐いた。
「三ツ谷くん、ちゃんと寝ないと」
「睡眠時間も惜しい。それに本当あと少しで終わるから大丈夫だ。悪いな、折角来たのに何もしてやれなくて」
隈凄いですよ。お裁縫だって針使うんだから怪我するでしょ。集中力も切れてるだろうし、ちゃんと休まないと危ないっす」
「本当、マジであとちょっとだから」
どれだけ言っても隆は全く聞く耳を持たない。武道の忠告を無視して作業を進めようとする手を彼女は優しく掴んだ。
作業出来ねぇんだけど」
「流石に寝よう。倒れちゃいますよ」
「手ェ離して」
「酷い状態の三ツ谷くんを放ってはおけないです」
言っても聞かない武道と言っても聞かない隆の攻防は平行線を辿っている。それでも部屋の外側から聞こえる『ちゃんと会話してるしワンチャンある?』と言う声に困った様に眉を下げた。今までは会話もしてくれなかったのかだとか言いたい事は沢山あるけれど、今は目の前の男をどう休ませるかに注力しようと決意する。
「倒れたら皆心配しますよ。ただでさえ八戒なんかうるさいのに」
やっぱ八戒に連れて来られた?」
「まあ別にそんな事はどうでも良くて、倒れてからじゃ遅いのでちゃんと寝てください。私も、心配です」
武道をジッと見て隆は深く長く息を吐いた。掴んでくる彼女の手を見つめ、考える様な素振りを見せる。
「タケミっちは心配してくれんだ」
「当たり前でしょ。心配しない訳ないっす」
………本当はこのまま作業して今日中に終わらせたいけど、中断して休むのも考えてもいいかな」
「考えてもいいって……とりあえず、休んでくれますか?」
「タケミっちが俺と付き合ってくれんならね」
…………えっ?」
隆が何を言っているのか分からず、首を傾げて聞き返す。それでも同じ事を言われ、先程の言葉が幻聴でも何でもないと知った。困惑していると隆が目を細めながら口を開く。
「タケミっち俺の彼女になれる?」
「え
「そしたら今日は休もっかなって思ったんだけど……無理だよな」
隆は絶対に無理だろうと思って話を持ち掛けている。そりゃあ沢山お世話になった彼女に向ける下心や好意の一つや二つは抱えているのだから受け入れてくれるならそれ以上の喜びはないのだけど、そう上手くいくはずもない。
当たり前の様にどうせ断るだろと思い、隆は首を傾げて武道の言葉を促す。彼女はキュッと口を噤んだまま俯いていた。少し時間が経って流石にこの二択は酷すぎたかと自覚して『やっぱり』と続けた時、彼の言葉を遮る様に小さな声が発せられた。
…………いい、です」
………い、いま、なんて?」
付き合っても、いい、です」
余裕そうだった隆の目はみるみるうちに見開かれる。隆の腕を掴む手からは微かに震えを感じる。無理して言っているのだろうか。無理してまで選ぶ様な選択肢ではない様な気がするのだけれど。隆は俯く彼女に声を掛ける。
無理しなくて良いんだぞ」
「無理じゃ、なくてっ休んでほしいとか、そう言うのも関係なくてあの、だから、普通にあの、付き合っても良いって、意味で」
えっ、え」
「彼女になっても良いよって、その、そう言う意味で……ぁ、あの、えっと……………すき、なんです。三ツ谷くんのこと」
武道の声はどんどん小さくなって、最後はもう蚊が飛び回る音よりも静かだった様に思う。それでも隆の耳にはしっかりと届いて、一瞬にして顔を赤くした。
「えっ、ご、ごめんえ、えぇ
突然の謝罪に武道はビクリと体を揺らす。手に更に力が籠って指先が震えた。
冗談で、言ったんですか?」
「ちっ、違くてな!あ、えっと、何となしにごめんが口をついて出ただけというか、いや、そんな事はどうでも良くて、ほ、本当に、いいのか?」
武道はもう口を開く事なく、コクリと頷く。髪の隙間から見える耳が真っ赤になっている事から彼女も相当恥ずかしいのだと見て取れた。
心臓の音がひどく大きく聞こえる。武道の顔が見たい様な気はしたけれど、彼女に負けず劣らず顔が赤い自信もあって見られたくないなとも思う。静かに離れていく武道の手を追いかけ、触れた。
……本当に良いの?」
………うん」
「彼女になってくれる?」
うん、なる
ま、マジかぁ……
改めて聞いて、それが間違いではない事を思い知らされる。嬉しくて叫び出したい気持ちは大いにあるけれど、同時にこれで良いのかと自問もする。こんな形で縁が結ばれるなんて何だか情けない。後日改めて想いを伝えようと決意する中、武道が隆の手にもう片方の手を重ねてくる。
「三ツ谷くん」
「え、なに」
「休んでくれますか?」
「アッハイ、ぇぁや、やすみまぁす
そろそろと顔を上げた武道にとてもドキドキした。顔を真っ赤にして口をキュッと噤んだ彼女は、隆と目が合った途端に目線を逸らす。
隆は今まで見た事のない可愛い武道に緊張してみっともない声を上げた。上擦った男の返答に彼女は『うん』と安堵の笑みを浮かべる。抱き締めてもいいかなぁなんて浮かれて武道へ手を伸ばした時、ルナ達の騒ぐ声に引き戻された。隆達は少なくともルナ、マナ、八戒の三人にはしっかりと聞かれていた事を思い出したのである。

寝て、起きてみて、それからの事。課題の服も無事提出して一息吐いたところでハッとする。
そう言えばタケミっちは、あの時彼女になってくれるか聞いたら、頷いた様な、気が」
あの時とは課題のために徹夜で作業していた隆がどうしても寝たくなくて言った『付き合ってくれる?』なんて言葉に真っ赤な顔で頷いてくれた時。勿論、疲れていたし、多少頭も回っていなかったが隆も正気ではあった。だから武道が頷いた事も、念押しで聞いた『彼女になってくれる?』と言う質問に『うん』と呟いた声も全て覚えている。
しかし何度も彼女の言葉を聞いて何度も念入りに確認したくせに、未だに武道が彼女であると言う自覚はなかった。あの後だって恥ずかしくなった武道は一人でそそくさと帰って行った。そしてあれ以来彼女と連絡は取っていないし、あの場に居合わせていた八戒には『流石に冗談だよね?』と言われ続けている。あの時の言葉も何もかもも、全て嘘でも夢でもない事は分かっていて、それでも信じられないのだ。ふと我に帰って冷静になった今、同じ事を聞いたら『やっぱなし』と返されてしまう可能性は大いにあった。
「つかそもそも、始まりがあれはダセェよな
ルナにもマナにも、あんな善意につけ込む様な告白は最悪だと強く言われた。八戒にもあの告白は冗談でも可哀想だと言われた。自分でも思い出すたびに最悪だとゲンナリしてしまうし、実際に言われた武道も冷静になってみて、きっと気持ちが萎えてしまっている、多分。
だからどうしても、隆はやり直したかった。ちゃんとしっかりとした告白をして、その上でオッケーを貰って彼女を抱き締めたい。課題も終わり、余裕のある隆の心を占めるのは淡く甘酸っぱい恋ごころである。
今すぐ武道に会いたくて、隆は彼女に連絡を入れた。メールか電話か。悩んだ末に電話を選んだ。気恥ずかしさは格段に増すけれど、どうしても彼女の声が聞きたかった。
掛けてからツーコール目で武道は応答する。発信元の名前を確認して身構えたのか、電話越しの声は少しだけ硬い。
「あー、タケミっち」
『はい』
「いやえと、ひさし、ぶり?」
は、はい』
あのさ、今から、少し、会えたりしねー、かな?」
『今から、ですか?』
「いや、ほら、まあ、用事があったら全然、全然!良いんだけど
『あ、い、いえっ!行きます!えと、どこに行けば
「あー……ウン。そう、だな一回神社に集合しようか」
神社とは中学生の頃に集会で集まっていた、いつもの神社である。武道にもそれは通じたのか少しの間が空いて『分かりました』と言葉が返って来た。
「じゃあ、後で」
『あ、は、はいっ。向かいます』
武道は硬い声のまま電話を切った。自分も大概緊張していたけれど、彼女の緊張感と言うか、警戒した様な雰囲気に少し不安になり、血の気が引いていく。これってまさか、『やっぱやめます』のやつなんじゃないのか。隆はそう思った。少し冷静になってみて、彼女の善意につけ込んだ最悪の告白に呆れてしまったのではないか。隆はゴクリと唾を飲み込む。
いや、とりあえず行こう」
そう思うと何だか行きたくもなくなるが、誘ったのは自分だ。早く待ち合わせ場所に行かなければと乱暴に着ている部屋着を脱いだ。
神社に向かうとそこには既に彼女が待っていた。神社の階段の一段目に腰掛けて、目を伏せている。隆は乗って来たバイクから降り、一呼吸吐く。そして意を決して彼女に話し掛けた。
タケミっち」
……三ツ谷くん」
彼女の大きな目がこちらを捉えた。階段から立ち上がり、武道は隆の前まで来る。その目は泳いでいて何かを悩んでいるのか、困っているのか、繊細な仕草から真意は読み取れない。
あー、えっと、久しぶり?」
「あ、っす」
……あー
何だか緊張して、気まずくて言葉が続かない。何を言おうか迷っていると武道が口を開いた。
「課題、どうでしたか?」
「終わったよ。無事提出した」
「それは、良かったです」
そして再び二人は黙る。武道はキュッと口を噤み、モジモジと恥ずかしそうにしている。気まずそうな表情ではあるけれど、彼女の頬は確かに赤らんでいておそらく恥ずかしがっているのであろうと言う事は読み取れた。先程彼女が話してくれたのだから今度は俺が、と隆は喋りかける。
とりあえずさ、神社、行っとく?」
はい」
神社に人はいない。元々暴走族の集会所でもあったし、集会のない日にも何人か厳つい見た目の不良はいたものだから近隣の人達は怖がってあまり寄り付かなくなってしまった。賑わうのは祭りの時くらいである。神主には申し訳ない事をしたと不良から足を洗った今だからこそ思うが、今回に限っては人がいない事に感謝した。
人のいない境内を何となく歩く。どこへ行こうだとか、そんな事は何も考えずに隆はただ歩いていた。そんな男の後ろを武道は健気に着いて行く。
隆は迷っていた。この曖昧な関係性をどう聞けば良いのか。直球で聞いてしまいたい気持ちは山々だけれど、望んでいない答えが返って来た時に傷付くのが怖い。そう思いながらああでもないこうでもないと質問を練っていた時、後ろからギュッと袖を掴まれた。
タケミっち?」
「三ツ谷くん」
……何?」
「あの、あの、私、えっと
「どうしたの?」
「私、あーえっと、あの、私、み、三ツ谷くんの、その、彼女って、名乗って良い、ですか?」
恥ずかしそうに顔を赤くして、眉を『ハ』の字にしたままコクリと首を傾げた。彼女のその言葉に隆の胸はキュウと締め付けられ、上手く声が出ない。タケミっちのその顔、どうしよう、すごく可愛い。
「そのあんな勢いのままの告白じゃ、なんか本当に付き合ってるのかなって、不安でもしかしたら私が勘違いして勝手に盛り上がってるだけとか、そう言うのもあるんじゃないかなって思ったら、なんか、止まんなくて
……それな、俺も一緒だよ」
隆の言葉に武道は驚いた様な顔を見せた。彼の袖を掴んでいた手を優しく握り、親指の腹で手の甲を撫でる。
「タケミっちの好きって言葉はすっげー記憶にあんのに俺の日常は至って普通でさ、いつもと変わんねーからなんか、もしかしたら付き合ってるのとか嘘なのかなって。また同じ事聞いたら『やっぱなし』とか言われんじゃねぇかなって思ってた」
隆に答える様に武道はコクリと頷く。武道の手を握っていると段々と気持ちが落ち着いて来て、上手く話せるようになってきた。冷静な気持ちで隆は考えながら言葉を紡いだ。
「あんなさ、善意につけ込むみたいな最悪な告白、冷静になってみたら普通にドン引きされてもおかしくない訳だろ。タケミっちも数日して冷静になったら『ありゃなしだな』ってなっててもおかしくないよなって思ってなんか、ここ来るまでにすげぇドキドキしてたんだよな。やべ、俺フラれるかもって」
たしかに、まあ、告白はめちゃくちゃダサかったっすけど」
うん、本当にすみません
「付き合うって言葉にも、彼女になる?って質問にも凄く嬉しいって思う自分はいました」
うん」
てあの時に私が伝えた言葉は、嘘なんかじゃないです。私は三ツ谷くんが寝るとか寝ないとか、休むとか休まないとかそう言うのはあんまり関係なくて、ただ純粋に、私は三ツ谷くんの事を」
そう言った彼女の言葉を止めた。そこから先を言われると何だかこの前のみっともない様子とさして変わらないし、こうして呼び出した意味もない。言葉の途中で『タケミっち』と名前を呼べば、彼女は言葉を止めて隆を見つめた。
「タケミっちの事が好きだ。俺の彼女になってください。付き合ってくださいっ!」
送ったのはシンプルな告白である。何の色付けも味付けもされていない、素直で純朴な言葉だった。握った隆の手の上に自分の手を添える。そして真っ直ぐと彼を見つめる武道は目を細め、へらりと笑った。
「うん、いいよ」
恥ずかしそうに真っ赤になりながら、彼女は嬉しそうに破顔させた。その笑顔を見て隆も表情を緩める。断られなくて良かったとか、思う事は沢山あるけれど体中を駆け巡るのは嬉しさだった。初めて彼女の言葉を聞いたあの時と同じ嬉しさだ。
感じる人の温かさと女の子特有の肌の柔らかさに名残惜しさを覚えつつも隆は彼女の手を離す。彼は頬を人差し指で掻きながら『あのさ』と武道に呼び掛ける。
「なんすか?」
「抱き締めて良い?」
武道を、好きな女の子を抱きしめたいと思った。それは想いを伝えるよりずっと前からそう思っていた。だから優しく、おずおずと聞いてみれば武道は恥ずかしそうにはにかんで小さく頷いた。
いざ抱き締めようと両手を広げるも隆はピシリと固まる。小さな妹を抱き締めた事は何度でもあって、それと同じ容量でとは思えども、いつも以上に緊張してしまった。力加減はどうしたら良い。いつもどんな風に小さな少女達を抱き締めていただろうか。どうすれば良いのか分からなくて隆は動きを止めた。
悩ましげに視線を逸らし、考えている素振りだ。彼のその様子を見た武道は広げた腕の中に飛び込み、背に手を回す。耳を寄せた彼の胸からは途端にバクバクと大きな音が鳴った。彼女は静かに息を吸う。柔軟剤がお日様か、安らぐ香りが鼻を擽った。
「良いですね、距離が近いといつもよりずーっとおっきく見える」
ええと
「東卍の皆、背が高くて話す時結構上向くからマイキーくんとか三ツ谷くんとか、割と背が近くて話しやすいんですよ」
それは俺がチビだって言ってる?」
「あっ、違うんです!えっと、普通に話してると私とそんなに変わらないんじゃないかなって思うんですけど」
武道は背に回した手に微かな力を込める。元々抱き着いて密着はしているが、それでも更に距離が近付いたような心地がして隆はドキリとした。
「こうしてギュッとしてると、凄く大きいなって思います。背中も、胸も、私とは違って男の子だ。だから、緊張してるんですよ、すごく」
ドキドキして緊張して浮ついていたが、そう言われて少し冷静になる。すると背中から伝わる小さな震えだとか、話し終えて恥ずかしさを噛み殺す様に唇を噛み締める様子の彼女に気付いた。その途端何だかスッと冷静になる。
彼女がこれだけ頑張ってくれたのだからここで固まっているだけと言うのは情けない。隆は彼女の背中に手を回し、優しく触れる。妹達を抱き締めるよりも優しい手で、しっかりと抱き寄せた。
「妹達とはちげーな」
「同じだと思ってたんですか?」
「そう言う訳じゃねぇけど何か良い匂いするし、柔らけぇし、妹より全然ドキドキするわ」
「妹にドキドキしてたら嫌っす」
「そりゃそうだ」
抱き締めると彼女の華奢さがより分かる。男相手に啖呵を切って、どれだけ殴られ蹴られようとも起き上がってくる武道も女子なのである。今すぐに死んでも良いなぁなんてぼんやり思ってしまう程の幸せを感じて隆は顔が緩んだ。
「タケミっちを抱き締められるなんて夢みたいだ」
「夢じゃないですよ」
「知ってるよ。タケミっちの事、すげー好きだ」
「はい私もです」
皆に彼氏ヅラしていい?」
………あの、いや、なんか皆に三ツ谷くんと付き合ったって言って回るのめちゃくちゃ恥ずかしいんでえっと、まだもうちょっと、黙ってて欲しい」
……まあ、ちょっとアイツら家族と似た様なところはあるし気持ちは分からなくねぇけどなタケミっちの気持ちの整理?的なのがつくまで待つかぁ」
ドラケンくんくらいには伝えときます?」
「そうだな。八戒は俺達が付き合ってるって全然信じてねぇし、改めて伝えたら一瞬で広まるだろうな。マイキーも多分騒ぐから一瞬で広まる」
ドラケンくんだけにしときましょう」
後日、二人の報告を聞いた大男はスパナを握り、嬉しそうに『おめでとう』と言った。

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