イート・パプリカ!

一世一代の告白に、虎杖は眉を下げて笑った。彼は少しだけ考える素振りを見せた後、口を開く。
「まー、パプリカ食べれたら良いよ」
伏黒は静かに息を吸い込んだ。

食事と言うのは生きる上で必要不可欠である。三大欲求の一つとして食欲が上げられる程、生物と食は密接に絡み合うものだ。しかしこの伏黒恵、そんな食事を常に疎かにしていた。
両親を早くに亡くし、姉と二人暮らしの学生時代は非常に貧しい思いをしてはいたが、栄養バランスの良い美味しい食事を取っていた。それは単に姉のお陰であった。
しかし姉が結婚して一人暮らしを始めてから伏黒の食生活は一変した。以前はバランスの良かった健康的な食事は変わり、コンビニ弁当や、ご飯も味噌汁も無く割引された惣菜のみの生活ばかりであった。朝はそもそもコーヒー一杯で終えてしまうし、夕飯を食べない事もザラにある。もう長く住むボロアパートだがキッチン周りだけは新築の様にピカピカであった。
伏黒は無愛想だが意外にも社交性がある。しかし彼自身、付き合う人を選びに選び抜く様な人間であったため、本当に親しい人と言うのは少ない。その中の一人、虎杖とは高校来の友人であった。虎杖は底抜けの善人であるというのが伏黒の見解だ。実際、虎杖は誰がどう見ても良い奴なのである。困った人を放っておけずに授業に遅刻すると言う事もあった。
虎杖と伏黒は社会人になってなお、友人である。かつてはボーリングやカラオケに出掛けてはしゃいでいたが、今となっては偶に会って酒を飲み合う大人の関係になった。学生の時より感じる距離感。自覚した途端、伏黒は酷く寂しさを覚えた。姉がいなくなって一人になった日の夜よりも寂しく虚しい。それをトリガーに伏黒は虎杖に恋をしていると気付いた。
話は変わるが、伏黒はSNSをやっている。この時代にSNSの一つや二つの利用は当たり前だとは思うが、実際の所、伏黒はやっている様でやっていなかった。彼はあまり更新をしないのである。彼は他人の投稿を横目で見て鼻で笑うだけであった。
しかし虎杖に限っては違った。彼のリア垢の呟きを気味悪がられない程度に『いいね』を押した。彼の営む定食屋のアカウントもフォローして、彼の動向だけは逐一確認していた。投稿を見てにっこりするのが最近の趣味とも言えた。これが知らず知らずの内に恋心を拗らせていた男の末路である。誰か通報してくれ。
そんな伏黒が何を思い立ったのか、久方ぶりにSNSを更新した。投稿内容は『晩飯はこれだけ』と言う端的な言葉とともに半額シールの付いたコロッケの写真である。SNSは何気ない事を呟くツールであり、言葉に意味が無い事も多いがそれにしてもその投稿には何の意味も無かった。ウンヶ月ぶりの投稿にも関わらず、質素どころではない夕食の写真など血迷っている様に思う。だが伏黒はシラフだ。伏黒は割とナチュラル狂人なのである。
この投稿に付いたコメントを簡単に纏めれば『最悪』である。女友達釘崎は『早死乙』と送信してきた。しかしこの投稿が伏黒の未来を変えた。
突然、虎杖から連絡が来た。虎杖の連絡は毎回突然だが、今回の物は発言が突飛であった。
『出勤前朝イチで店来て』
虎杖の店はオフィスの近くにある。これは完全な偶然であった。伏黒の名誉にかけて狙っていた訳ではない。何なら伏黒が就職してから、虎杖がそこに店を構えた。
少しだけワクワクした気持ちで虎杖の店に向かう。満員電車の息苦しさや不快感も今日ばかりは気にならなかった。
店のドアには準備中の札が掛かっていた。何と言うか、とても入り辛い。人目もあるし、今問答無用で扉を開けて入って行けば、虎杖の店の従業員からは変な人を見る目で見られてしまうだろう。流石にオフィス街で店主の人柄もあり、それなりに成功しているこの店を虎杖一人で回している訳がなかった。虎杖一人での営業だったなら、幾ら彼の身体が頑丈でも早々に壊れてしまうだろう。
そんな虎杖の仕事仲間に冷たい目で見られるのは嫌だった。やはり伏黒も人間で、それなりに人の目は気になるのだ。少し開けるのが億劫になって伏黒は虎杖に電話を入れる。
もしかしたら準備中だから出ないかも。そんな考えが頭を過った矢先、虎杖は電話に出た。今店の前にいると彼に伝えれば、店の中からはパタパタと足音がした。ガラリと引き戸の扉が開く。
「おーっす!おはよー!」
「おう。はよ」
じゃなくてだな!言いたい事あるんだよ!とりあえず中入って。従業員には話通してあるし」
虎杖に促され、開店前の店内に入る。中では笑顔の素敵な中年女性やおそらく大学生であろう好青年が店内の清掃作業をしていた。店長と共に入って来たスーツの男を見るなり、愛想良く挨拶をする。それに言葉を返し、伏黒は虎杖に促されて席に着いた。
「朝早くからごめんな。いつもより通勤時間早いだろ。電車凄かったでしょ」
「そうか?いつもとそんなに変わらなかったが
「いや、まあ、それなら良いんだけども!良くはないけど!本題!本題ね!」
虎杖はテーブルをパンと叩いた。上に並ぶ割り箸入れがごとんと揺れる。
「あれ!あの投稿!何あれ?」
「晩飯のやつか?」
「そう!ご飯は?汁物は?野菜は?食った?」
「あ?食ってねぇけど」
「何で偉そうなんだよお前」
別にそんなつもりは無いけれど。だが虎杖は目を吊り上げた。
「バランス最悪すぎでしょ!よく俺が見てる所であんなの載せたな!」
「そうか?」
「そうかって何?ずっとあんな感じ?」
「そうだな。弁当に半額シール付いてたらそれ買う。でもまあ、俺が帰る頃にはもうほとんど無いし大概はあんな感じ」
「すげぇ明け透けに言うな。怒られてるって分からんのか」
「揚げ物だけでもこうやって生きていけてるだろ」
「いけてるだろじゃねぇわ」
虎杖は伏黒の額を軽く叩く。溜息を一つ、呆れた様な顔で僅かに浮かした腰を椅子へ下ろした。
「今は大丈夫でもその内ボロが出てくるよ。早死にしちゃうじゃん、どうすんの?姉ちゃんも悲しむよ」
今アイツの事出すのは卑怯だろ」
「卑怯じゃありません。変な食生活してる方が悪いです。と、言うわけでこれね」
そう言って虎杖は伏黒に保冷バッグを差し出した。首を傾げる彼に虎杖は言う。
「弁当」
「弁当?」
「そ。昼飯。どうせ昼もろくに食ってないでしょ」
「店に行く、……時もある
「コンビニでパン買うだけの時もある訳ね。ほら、だから弁当」
伏黒の手の中に保冷バッグを押し付ける。そして虎杖は悪戯っ子の様な笑顔で彼を見た。
「人気定食屋の弁当が無料で食えんだよ?うめぇぞ?」
確かに」
「食ったらここに返しに来てよ。そのまま飯食ってけよな。あっ、晩飯は金払ってもらいたいけど」
「弁当も貰っといて流石にこれ以上のタダ飯食らう気は無いがい、良いのか?」
「良いよ。むしろ今まで俺の店あんま来てくれなかったのなんでなん?」
友達に来られるの、気まずいかと思って」
「それは伏黒じゃねぇの?」
虎杖はケラケラと笑った。そうなのかもしれない。虎杖に恋焦がれるくせして店に寄り付こうとしないのは、自分に気まずさがあるからなのだと思う。照れ臭そうに頬を掻く伏黒の頬を虎杖は両手で押した。
「んむ」
「俺も早くに友達の葬式なんか行きたくねぇし、健康的な食事して長生きしよな」
……虎杖は俺が死んだら悲しんでくれるのか?」
「俺が死んだらお前が悲しんでくれるのと、何も変わんねぇよ」
その日、初めて食べた彼の弁当がひどく美味しかった事をよく覚えている。そこから伏黒と虎杖の更に関係性は濃いものとなった。朝には虎杖の店へ弁当を取りに行き、夜は彼の店で食事をする。混み合う店内で、他の客には内緒で自分だけにサービスの小さなおかずを付けてくれる事が嬉しかった。伏黒はいつも、隅の席で何とも言えない優越感に浸っていた。
そんな友達以上の様な、そうでもない様な関係性の中、伏黒は突然覚悟を決めた。理由など特に無い。どれだけ過ごしてもやはり好きだったから。先に進みたいと思ったから。定食屋のメニューじゃなくてサービスの小さなおかずじゃなくて、ご飯も汁物も大皿のおかずも、全てを自分だけのために作って欲しいと思ってしまったからである。彼の愛情を独占したかった、伏黒のエゴであった。
そう思った伏黒が、虎杖家での二人きりの飲み会にて言った事が冒頭に繋がる。そして困った顔の虎杖が言った言葉といえば『パプリカ食べれたら良いよ』であった。
「ぱ、パプリカ?」
「ん?嫌いじゃん。めちゃくちゃ」
「えっ、あいや、嫌い、だけど」
「大学の時も料理に混ざったパプリカ目敏く見つけて皿の端に避けてたじゃん」
伏黒は何も言い返せなかった。実際にそうしていたからだ。大人になったからと言って好き嫌いが無くなる訳はない。好きになったものもあれば、嫌いなままのものもある。パプリカは後者であった。
小さい頃からずっと苦手で、今食べてみてもやはり苦手で。ピーマンの様な見た目のくせしてピーマンとは全然違う、まさに悪魔の様なそれとはもう一生相容れないだろうと思っていた。しかし、今求められているのはパプリカとの和解だ。いや、寧ろパプリカを平伏させねばならない。
「だから、パプリカ食べて俺に男見して」
「パプリカなんか食わなくても生きていけるだろ」
「出た、最悪の言い訳。農家に謝んな」
今更克服なんざ無理だろ。子供の頃から嫌いで、未だに食えねぇんだから」
「別に好きにならなくて良いんだよ。食べてくれれば」
それが無理なんだよ」
伏黒にとって俺への愛情ってパプリカへの憎しみより下なんだねぇ」
「は?」
「ひでー男だな伏黒は。そんなにパプリカが気になるなら一生パプリカと喧嘩してなよ」
「訳分からん」
虎杖は眉を寄せ、そっぽを向いた。不機嫌そうに缶ビールを煽る姿に伏黒は困惑の表情を浮かべる。
「そこまでの事なの?」
「お前が思ってるより難しいんだぞ、嫌いな物の克服っつーのは」
「食べてよ、パプリカ」
伏黒は更に眉間の皺を深くした。彼のその顔に、虎杖はへらりと笑い掛けるのだった。
パプリカを理解せよ。パプリカと和解せよ。否、パプリカを平伏させよ。伏黒恵は因縁の相手、パプリカを食さねばならない。
震える手で箸を持ち、その箸で弁当に入っているパプリカの炒め物を摘んだ。真っ赤なパプリカの表面には胡椒が振られている。普通の人からすれば美味しそうな代物だが、伏黒からすればそれは悪魔よりも恐ろしい相手であった。
昼休憩の時間になり、保冷バッグから取り出した弁当と向き合った瞬間に何かを察し、いつもは楽しみな弁当の時間が地獄に変わった。四角い弁当箱がパンドラの箱に見えてしまって仕方がなかった。
伏黒は摘んだパプリカを口元まで運んでみる。いけ、口を開け。そして放り込め。そんでもって一気に飲み込め。頭では分かっていても伏黒には出来なかった。それがパプリカであると知っているからだ。どうしたって、子供の頃からずっとパプリカとは分かり合えなかった。
伏黒は溜息を一つ吐き、弁当箱にパプリカを戻す。そしてパプリカの炒め物以外は空になった箱の蓋を閉じ、何事もなかったかの様に保冷バッグにしまった。結局、虎杖に『パプリカ食べれたら良いよ』と言われた日から、伏黒は一度もパプリカを食べれていない。
虎杖の元へ弁当を持って行くと、彼は『ダメかぁ』と笑った。最早開けなくても結果は分かっている様だった。だがパプリカの猛攻はそれだけでは終わらない。昼のパプリカは第一陣、第二陣のパプリカは夕食である。
頼んだ生姜焼き定食の端に置かれた愛らしい小鉢に乗った赤と黄色のパプリカ。禍々しい気を発するそれはお盆の隅にちょこんと居座っていた。厨房を見れば、手際良く料理を作る虎杖がいる。ふとお互いの視線があった。ポケモンなら恐らくバトルが始まっている所だが、虎杖は伏黒ににこりと微笑んだ。しかしなんだか圧を掛けられている様な気がしてゴクリと唾を飲んだ。
食べなければ。パプリカを食べなければ。パプリカ一つで俺の、俺達の幸せが決まる。その意志を勢い付けるかの如く、伏黒はビールを煽った。
割り箸をパキンと割る。いつもの如く、あまり上手く割れていない。そしてその勢いのままパプリカを摘んだ。黄色いパプリカはテラテラと輝いている。黄色く輝く長細いそれを伏黒は口元に運んだ。そしてそのパプリカを開いた口の中へ放り込んで──。
なんてことはなく、口に放り込む前に箸を下ろした。やはり無理だった。パプリカを見るたびにどうしたってパプリカの嫌いな部分を思い返してしまう。伏黒は箸を置いて息を吐いた。
「無理だ
普通の人間はパプリカ如きで何をと笑うのかもしれないが、伏黒にとっては何を持ってしてもどうにもならない事であった。どう足掻いても苦手なのだ、パプリカが。別にパプリカのせいで親が死んだだとか、命の危機に晒されただとかそう言う事ではないけれど、兎に角ダメだった。最早生理的に無理の域にまで達している様な気さえする。
厨房の奥で虎杖は笑っていた。少しだけ呆れた様な顔をしてフライ返しを握っていた。
「どうしても無理なんだね」
店の定休日、虎杖と連れ立って居酒屋に入った伏黒は彼にそう言われた。伏黒自身も大分参っている様で、バツが悪そうに目を逸らした。
どうしても、パプリカって分かる状態で食わなきゃダメか?」
「そうじゃないと証明にならんでしょ。細かく刻んでハンバーグに混ぜてそれ食ったらオッケーなんてそんな生っちょろい事、俺は許しません」
すみません……
どうして謝っているのか、それすらも分からない。虎杖は枝豆を食べながら呟く。
「簡単だと思ったんだけどな」
あ?何が?」
「何でもねー」
テーブルの上に並ぶ料理の中、虎杖の目の前にあるのはパプリカのマリネだ。こんな無骨な居酒屋にこんな洒落たメニューがあるのだと虎杖も面白がっていた。虎杖はパプリカを箸で摘み、口に運んでは咀嚼する。『凄いな、よく食えるな』と感心した様な顔をしていると、虎杖はじっとりと伏黒を見つめた。
「見てる暇あったら食えば?」
………何か今日のお前ちょっと機嫌悪くねぇか?」
「別に」
「何かやったか?俺」
「弁当のパプリカだけ残してる」
……すみません」
パプリカと対峙する時間に伏黒は何度か思った事がある。虎杖は本当は自分の事を何とも思っていなくて、告白を受けないためにそんな事を言うのではないかと。別に彼に対して確信的な脈があったとは言えないが、それでもある程度好意的には取られているのではないかと思っていた。だがそれも自分の単なる思い過ごしなのだとしたら、非常に恥ずかしい。
いつまでもズルズルと宙ぶらりんな関係を続ける訳にはいかなかった。自分の事を棚に上げてこんな発言をするのだから、伏黒も狡い大人だ。
……別にさ、断りたかったから断っても良いんだぞ。俺も交際を強要してる訳じゃない。ちゃんとお前の意思で選んで欲しい」
その言葉を言った瞬間、虎杖の表情は変わった。怒った様な顔をして伏黒を睨み付ける。
それはさ、本気?」
「そうだが」
「はーあ。伏黒はいっつもそうだねぇ。鈍感、馬鹿。少女漫画のヒロインじゃねーんだからさ」
「は?何の話だ」
「何も蟹も無いよ。本当に、嫌な大人に捕まったって感じだ、俺」
何の話をしているのか全く分からず、伏黒は首を傾げる。ジョッキに入ったビールを気持ち良く飲みながら虎杖は口を開いた。
「俺はさ、皆から優しい優しいって言われてっけど言いたい事は割りかしはっきり言う訳ね。勿論、言い方は考えるけど」
「はぁ
「本当は俺から答えなんて言いたくないよ。でも、伏黒はずっと分かんねぇんだろうから言ってみるけど、俺は別に伏黒の事断るためにあんな事言った訳じゃねぇの。振る前にちょっくら遊んでやろ、みたいな事は全く思ってねぇのな」
……おう」
「ちょっとだけ試したかっただけ。伏黒の愛情が知りたかっただけ。だからあんな事言った、それだけ」
何が言いたいのか、いまいち容量が掴めないでいた。それでも、何となく期待してもいいのかもしれないと心が上向きになっていくのを感じる。
「俺は皆が思ってるよりお人好しじゃねぇ。人の好き嫌いはちゃんとあるし、人によって対応が変わる事もある、と思う。俺自身の事なんかあんま分かんねぇけど」
「それで」
「別に俺だって誰彼構わず弁当を作ってやったりせんのよ。そりゃあお前の食生活ヤバすぎるとは思ったけど、それでも伏黒じゃなきゃ放っておいてたよ。釘崎とかだとしても『ヤバイよお前』ってリプするくらいだった」
伏黒は目を見開いた。思わず目の前の虎杖を凝視してしまう。虎杖は伏黒の視線を軽くいなして頬杖を突いた。
「ここまで世話焼くのって割と下心だったりするぜ?」
「え、
「簡単だと思ってたんだぜ、パプリカ。さっさと食って迎えに来てくれると思ってたのにさ、甲斐性無しだね、伏黒くんは」
心臓がバクバクとなる。店内にいる他の人間の声など全く聞こえない。ただ目の前の虎杖が紡ぐ言葉だけを懸命に追っていた。
「こう言う事言わせちゃうのも甲斐性無し。俺なんでこんなの選んじゃったんかな。自分の審美眼を疑うね、我ながら」
え、あっ、わ、悪い
「でも気持ちってすぐには変えらんないしさ?まあ、改めて考えると分かる様な気もするわ。お前がパプリカ食えねぇって話もね。長くに自分に根付いた気持ちとか意識とかって気軽に変えられるもんじゃねぇもんな。難易度高すぎたのかも知れねぇな、伏黒には」
「い、いや悪い
「謝ってばっかじゃ何も始まらんよ伏黒くん。そうは思っても俺は条件を変えるつもりはないし、パプリカ食わない限りは頷かん。でも待たされ続けるのも嫌だからちょっと発破かけてやろってね。焦ったいね、伏黒。俺とお前で首絞めあってんの」
にこりと虎杖は笑った。虎杖がほほえみかけるたびに心臓は高鳴る。どうしよう、今ならいける気がする。気がするだけかも知れないけれど。何ならパプリカとも理解し合える気さえする。気のせいかも知れないけれど。
「だからさっさと食って迎えに来てくれると有り難いですね、伏黒くん?」
ゴクリと唾を飲み込んだ。そうだ、俺は唾を飲み込む以外にやらねばならない事がある。
パプリカを理解せよ。パプリカと和解せよ。パプリカを平伏させよ。パプリカを食せよ。
伏黒は決死の覚悟で箸を持った。

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