彼女はふわふわの髪を揺らしながら真っ白なワンピースに身を包んでいた。風でゆらゆらと揺れる金髪と白いワンピースの裾。
いやいや、天使じゃんか。何だか彼女の後ろには羽が、頭には天使の輪っかが浮いている様に見えてしまう。
「かーくーちゃん」
鶴蝶に気付いた武道は彼に近付き、頬を引っ張った。見かけよりも柔らかな頬を抓って大きな瞳で彼を見つめる。
「タケミチ」
「こっち見てボーッとして何考えてたの〜」
「口開けてアホ面だなって」
「えっ!開けてないけど!」
強く言った武道だったが、どうやら少しだけ心配になった様で『開けてないよね…』と鶴蝶に聞き返していた。心配そうに眉を寄せる姿に鶴蝶は目を細める。
タケミチは本当に可愛い。多分、天使なんだと思う。羽があったら飛んで逃げられてしまうから羽なんてない方がいいけれど、それでも羽が生えている様に見えてしまう程タケミチは可愛い。惚ける鶴蝶の頬を突いて彼の手を引いた。
「行こうよ、カクちゃん」
「あー、おう」
「…さっきからぼーっとしちゃってさ!なぁに?具合悪い?」
「別に、そうじゃなくてさ…やっぱ慣れねぇなって思って」
鶴蝶の様子に武道は首を傾げる。照れ臭そうに後頭部を掻いた彼は目を逸らした。
「だって、…その、可愛い、から」
「えー、ほんと?」
「天使みたいで…あの、羽が生えてるみたいな、なんか天使の輪が見えるかもって感じで…!」
「それ褒めてんの?」
「褒め言葉だって」
訝しげな表情をする武道。鶴蝶は少しだけ唸って小さく口を開いた。
「だから…えっと…実際めっちゃ好きって事…だから」
武道は目を見開いた。ゆっくりと瞬きをし、ふんわりと顔を綻ばせる。
「んへへ〜、何それおかしい」
「…何だよ、おかしくて悪かったな」
「もう、全然悪くないじゃんか。何も言ってないでしょ。私はカクちゃんの彼女だから、カクちゃんだけの天使で正解でしょ」
彼女の言葉に鶴蝶は顔を真っ赤に染めた。見開いた目を泳がせ、薄く息を吐く。
負けだろ、俺の。勝てねぇじゃん。別段、勝負したつもりなんてないけれど。幸せそうな武道の笑顔を見て思わず頬を撫でたら、彼女は困った様に眉を下げて『もう、やめてよね』と呟いた。